『何よりも「人」のありがたさを大事に思う。「人」が喜んでくれることが、私の幸せ。』
そう語ってくれるのが、宮城県東松島市小野駅前にある空の駅を訪れると「おかえり~」と笑顔で迎えてくれる武田さんです。
武田さんは、2011年3月11日の東日本大震災を機に、大きく世界観や価値観が変わったと言います。それまで、生活スタイルの違いや価値観が違うと、ご近所づきあいもそこそこだった。それが、一変します。被災後、みんなが同じように家や家財道具などを失って、一緒に避難所生活が始まると、今まで思っていた「違い」はなく、みんな同じだったんだと気づいたそうです。震災は、多くのものを奪ってしまったけれど、震災を機に気づかされたことがたくさんあると。
そして、震災によって得られたかけがえのないものが、人のつながりです。そして、その人のつながりのおかげで生まれた「おのくん」。「ちょっとした買い物など、普段の生活でも、いつもおのくんと一緒にいる感じなんだ」、とお話されます。
「おのくんが、無い世界?」「考えられない。」「私の人生そのもの。」だと、躊躇することなく回答が返ってきました。おのくんが、武田さんにもたらしてくれたものは、「生きがい」そのものだ、と話してくれました。
現在、地元のお母さんたち10名が中心になって、おのくんづくりをされていますが、関わる人はほかにもたくさん。おのくんがなければ、何をしていいかわからない、という方もたくさんいらっしゃるそうです。まさに、地域のみなさん、おのくんによってご縁を得た世界中の人達と共に、「生きがい」を共有することができるものになったのだと思います。
武田さんの毎日は、道の駅ならぬ「空の駅」への出勤です。出勤とは言うけれど、仕事だとは思っていない、だから楽しい。もともと縫物を仕事にされていた方が多いそうですが、今のおのくんづくりは、楽しいからやっている、よろこんでもらえるからやっている。それが、そのまま生活の一部になってしまった。お話を聞きながらそう感じました。空の駅は、そんなみなさんが、毎日冗談をいいながら、時間を共にし、笑い声が絶えない、私たちの居場所だと話してくれました。
これからどうしていきたいですか?との問いに。
「そんなのわかんねぇよぉ(笑)」と明るい返事が返ってきました。「いろんなことがあったけど、楽しいからやってる、つづけられる、がんばれる。そうしておけば、みんなとつながっていられる。」そんなお話を聞かせていただきました。
武田さんは、今日も地元のお母さんたちと一緒に、「空の駅」を訪れる人を笑顔で迎えておられるでしょう。それが武田さんの生きがいであり、人生そのものになってしまったのだから。
おのくん: 2011年3月11日東日本大震災の後、建設された陸前小野駅前応急仮設住宅のお母さんたちが靴下でつくったソックモンキーに、「おのくん」と命名されました。東松島を訪れた方への感謝とつながりの証として広がり、現在までに23万人以上の人とのコミュニティが生まれています。
おのくんおしゃれマスク:コロナ禍により、マスク着用が日常化してしまった生活を少しでも前向きに楽しんでもらおうと、おのくん同様、おかあさんたちの手によってつくられている。
里親さん:おのくんを自宅に引き取り、一緒に生活してくれる人を、里親さんと呼んでいます。
空の駅:みんなの集まる場所であった応急仮設住宅が撤去されることが決まったため、新たな交流拠点として、陸前小野駅前に作られた。おのくんの里親さんが里帰りする場所でもある。
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